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第1回「株式会社デンショク 野田常務×株式会社石井事務機センター 石井常務×株式会社SWITCH WORKS 竹本代表取締役」

2014.09

てい談企画

第1回 次世代経営者と語る「今後の事業展開と人材育成」について

人を育てるには費用・時間・労力に投資すること

アベノミクス効果により回復基調の日本経済だが、地方の中小企業で実感できるのはまだ少ない。厳しい競争を勝ち抜くためにはライバルとの差別化が必要で、商品やサービスに磨きをかけるとともに、さまざまな角度からの人材のスキルアップがカギとなる。今回、積極的に人材育成に取り組んでいる㈱石井事務機センター常務の石井聖博氏と㈱デンショク常務の野田令氏、人材育成トレーナーの㈱SWITCH WORKS社長の竹本幸史氏に、次世代経営者が考えるこれからの中小企業における人材育成について語ってもらった。

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㈱石井事務機センター 常務
石井聖博(いしいまさひろ)氏

岡山市出身。2002年帝京大学を卒業。06年に営業部に入社し、12年に常務取締役に就任。35歳

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㈱デンショク 常務
野田令(のだりょう)氏

岡山市出身。1996年に㈱デンショクに入社後、一橋大学大学院に入学し2003年にMBA取得。08年に常務取締役に就任。43歳

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㈱SWITCH WORKS社長
竹本幸史(たけもとゆきふみ)

鳥取市出身。元㈱リクルート岡山支社長。2013年に人材育成を主としたコンサルティング業務の㈱SWITCH WORKSを設立。38歳

人材育成に取り組むきっかけ

竹本  まずは県下の中小企業の人材育成の現状について話したいと思います。私がいろんな企業へ訪問して感じることは、ほとんどの企業が人材育成にかんして悩んでいるということです。人と組織が学んでいくことで、5年後に5倍、10年後に10倍の成果をあげることも可能です。ただ何から手を付けていいのか分からないと感じている経営者が多いように思います。そんな中で、2人は積極的に社員とコミュニケーションを図り、独自の人材育成に取り組んでいますね。何かきっかけがあったのでしょうか。

石井  私は9年前に入社しました。営業は経験があったので、自分で営業して商品を売ることは得意でしたが、部下をどうやって育てたらいいのかまったく分かりませんでした。また当時は経営理念もなく、従業員が管理職の何を見て会社を判断しているのかも気付いていなかったので、退社する従業員も多かったですね。ちょうどその時、リーマンショックと重なり会社の業績もどん底の状態でした。そうなって初めて会社のすべてを見直すことができました。今思えば、その時が自分自身も会社にとってもターニングポイントだったと思います。

野田  わが社は、経営理念そのものはありましたが社員に浸透せず形骸化していて、会社の業績アップにつながっていませんでした。そこで3年前に、会社で決めた目標を各部署へ、そこから社員へと落とし込んでいく目標管理制度を導入しました。社員は会社の目標に対して自分は何ができるのかを明文化。自分で立てた目標なので、やる気につながりやすいですね。四半期ごとに上司と話し合い、目標の達成具合で評価を決め、年度末の決算賞与に盛り込んでいます。売り上げなどの数字だけでなく、人間的な成長も評価基準に入れています。

竹本  会社への貢献度を数字だけでなく、多角的に評価するのはとても素晴らしいことですね。社員のモチベーションアップにつながっていると思います。石井さんは、具体的には取り組んだことはありますか。

石井  月1回、全社員と面談をしています。2010年から始めたので、もう4年間続けていますね。離職する人がなぜ辞めるのかを真剣に考えたのがきっかけです。自分だけで考えても分からなかったので、社員に話を聞くことから始めました。そうするといろんな問題点や課題が見え、それを基にどういった会社にするべきなのかを検討していったのです。面談内容としては、個人で立てた目標の現状把握と軌道修正がメーンですね。一番大切にしていることは、各社員の頑張りが最大限の結果に結びつくように指導することです。会社として評価できることをさせないと社員のモチベーションアップにはつながりません。あと、自分で立てた目標に対して前向きに取り組み、できない理由を言わない社風づくりに取り組んでいます。

竹本  いい取り組みですね。人材育成において、社員は管理職の仕事に対するスタンスを見て行動します。経営サイドの熱い思いを社員に正面から伝えること。それが会社の雰囲気や売り上げに直結してくるのです。石井さんはそれをきちんと行動に移していますね。

野田  私も経営層の成長が重要だと思っています。管理職として正解のない問いに対応していく人間になるには教養が必要だと思い、現在、岡山大学大学院で組織経営を学んでいます。ただ大学で学んだ知識や方法論だけでは社員はついてきてくれません。やはり一番は人間性ですね。まずは社員に人間として好かれること。そのためには社員の気持ちをくみ取ることが重要ですが、これは管理職としては意外に難しい。自分の常識や価値観を少し変えなければいけませんからね。

竹本  企業の人材育成でありがちなのが、できないことを部下のせいにしてしまうことです。2人に共通している思考として、自分自身の成長が従業員の成長にもつながると考えています。そういう思考は大切です。あと、社員の人間性に対してスキルを上乗せすることをどうやって仕事に置き換えるかだと思います。例としては、社員に対して役割や新しい仕事を与えることです。そのためには新しい事業展開と人材育成をうまく組み合わせる必要があります。現在取り組んでいる新規事業はあるでしょうか。

新規事業について

石井  今、力を入れているのが取引企業との関係強化を目的に始めた「パソコンパトロール」という事業です。今、さまざまなITツールがありますが、多くの中小企業は積極的に活用できていないのが現状です。大手業者も活用法のフォローまでは行っていません。そこにビジネスチャンスがあると思い、既存顧客に対してITツールに関する活用支援を付加価値として加え、価格競争からの脱却を目指しています。この事業自体の利益はほとんどありませんが、お客様との関係を強化することにより、新たな取引ができると思っています。

竹本  徹底的に顧客目線に立った結果、出てきた新事業ですね。そのほかにも考えていることはありますか?

石井 この事業を基本として、携帯端末と連動した活用法なども提案できると思っています。顧客との接点をより多く持つことで、次のビジネスヒントを見つけ出すことにもつながります。そのためには社員に高いコミュニケーション力が必要です。それに対する教育には、お金も時間も掛けていくつもりです。

野田  訪問するたびに、顧客の新しい情報を聞き出せるというのはとても重要なことだと思いますね。わが社では取引先と仕事の案件がない場合は担当者と会う機会がなく、有益な情報も得られていないのが現状です。こういう方法を取り入れれば新たなビジネスにつながると思います。今後、検討していきたいですね。

竹本  顧客の顕在化してない問題点を明確化する方法の一つですね。中小企業の視点に立った考え方だと思います。

野田  わが社は屋外広告や商業施設のディスプレイ、店舗内外装などに取り組んでいますが、屋外広告などはニーズが年々少なくなってきています。建設業界も今後縮小傾向になるでしょう。そこで、電動ロールスクリーンを使った記者会見用バックパネルのような新商品を企画し、新事業を模索しているところです。開発の特徴としては、すべてを一から開発するのではなく、既存の技術や製品を組み合わせて新しいものを生み出すというスタンスです。キーワードはコラボですね。

竹本  なぜそういうスタンスなのですか。

野田  自社でゼロから新しいものを開発すればオンリーワン企業になる可能性もありますが、いずれ大手企業が開発に乗り出し品質や価格で負けてしまいます。そういう開発はしないという経営判断です。その上で新規事業や新商品開発を加速させるため、集団で企画を出し合うブレスト会議を実施しています。初めての試みなので最初はどうなるかと思ったのですが、社員からいろんなアイデアが出てきました。また「こういう会議をしたかった」という声が多く、副次的な効果として社内の雰囲気が変わりつつあります。

竹本  いいことですね。会社の考え方を社員が理解して前向きに取り組んでいる良い例だと思います。

石井  私もコラボというのは、中小企業にとって重要なキーワードになると思います。顧客に必要な商品や情報を1社ですべて提供することはできません。他社とコラボすることで、自社の強みを生かし、弱みを補うことができると思います。

竹本  それを具体的な事業として進めていることはありますか。

石井  新たに起業する人を対象に、各種事務用品のリースをはじめ、金融機関、登記や社会保険に関する専門家、事業戦略や人材に関するコンサルタントの紹介までをトータルでサポートする「開業おまかせパック。」を始めました。事務用品は5年リースで月額1万円からですが、専門家の紹介は無償で行っています。

竹本  これはいいですね。異業種とコラボすることで地域企業全体が発展する可能性もあります。

石井  そうですね。わが社としてはいろんな企業のビジネスにつながる窓口になれればいいと思っています。だれかの役に立つこと。それが社員に浸透すれば、生き生きと仕事に取り組んでくれると思うのです。企画は私が考えることが多いのですが、取り組むのは現場の社員です。社員が前向きに取り組んでくれなければ、どんな事業もうまくいきません。そのためには人材教育が重要になっていきます。竹本  特殊なマーケットにいない限り、どの会社も似たような商品やサービスを扱っています。これだけ物やサービスが社会にあふれている状況で、商品だけで他社と差別化するのは難しい。やはり人材で差別化を図るのが一番だと思います。そのためには人材育成に対してもっと思い切った投資をしてもいいと思います。では最後に今後の課題を教えてください。

今後の取り組み、課題

石井  人材育成は一足飛びにはいきません。ただ社員には、やる気と考え方次第で自分の能力は伸ばせると伝えています。今、やっとそういう考えを社員に浸透させた段階です。今後は、各社員の強み、弱みをしっかり見極め、スキルアップを図りたいと思っています。

野田  会社が生き残っていくには継続的なイノベーション以外にありません。そのための準備として社員が自由にアイデアを出せるような「場」を積極的に創出していくつもりです。また自分の目標としては、私なりにリーダーシップ、スタイルを踏まえた上で社員の能力を引き出すために「ファシリテーター」としての能力アップを図りたいと思っています。

竹本  次世代経営者の2人へのインタビューで感じたことは、事業成長と人材育成の関係は表裏一体ということです。人を育てるということは時間と労力が掛かるものです。なぜ2人はそれに力を入れているのか。それは中小企業が継続成長しながら生き抜いていくためには、人で差別化していくしかないと自己体験で実感しているからです。仕事で顧客と接するのも、今後の事業のアイデアを出すのも、その中心にいるのは従業員なのです。それが分かっているからこそ、覚悟をもって本気で従業員の教育に取り組んでいるのだと思います。この想いは必ず従業員に伝わり、会社への愛着にもつながっていくはずです。それぞれの会社の事業展開が今後もとても楽しみですね。弊社もお客様の事業拡大に貢献できる人材教育により尽力していきたいと思います。

株式会社瀬戸内海経済レポート「週刊VISION」 2014/秋季特別号 特集企画より抜粋した記事を編集しております。