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【竹本塾 vol,39】「同一労働同一賃金」による人事制度の見直しが急務。
2021.02.06
コラム

同一労働同一賃金とは
20年4月1日から全国の大企業で一斉に施行された「同一労働同一賃金(別名:パートタイム・有期雇用労働法)」。中小企業に対しては1年後の2021年4月から適用されます。
同一労働同一賃金とは、同じ職場で同じ仕事をする正規雇用の従業員と、非正規雇用の従業員との待遇や賃金格差をなくすという考え方です。
それまでも労働関係の法律で一定のルールは設けられていましたが、今年からそのルールが明確化され、すべての事業主はこれを徹底することが求められます。
では実際に企業は、同一労働同一賃金制度に対し、今後どのような対応を行なっていけば良いのでしょうか。
これまでの日本の企業文化においては、正社員は非正社員よりも良い待遇で働けることが当たり前とされてきました。給与面はもちろん、福利厚生で受けられるサービスまで、大きな差がありました。もちろん責任の重さや業務内容が全く異なるものであれば、それらに見合う報酬も違うことは至極まっとうな道理でしょう。しかし、仕事の条件や負担が同じであった場合、こうした身分による差別は今後持続可能な日本社会を作っていく上でよろしくない、ということで想起されたのが、この「同一労働同一賃金」という考え方です
同一労働同一賃金における、メリットとデメリットとは
同一労働同一賃金は給与や待遇面において、企業(事業主)と労働者側では、それぞれの立場によってメリットとデメリットが異なります。ここでは、企業(事業主)側のメリット・デメリットを紹介させていただきます。
メリット①:非正社員の労働生産性向上が期待できる
これまで仕事内容に対する正当な評価をされておらず、かつ満足な給与支給がなかった非正規労働者にとっては、同一労働同一賃金が企業において正しく導入されれば、自身の働きを認めてもらうチャンスとなります。さらに同じ職場で働く正社員と同じような評価方法や給与体系となれば、日常業務に対する熱量(モチベーション)が向上し、労働生産性もそれに伴い高くなっていくことが期待できます。
メリット②:優秀な人材を確保・採用しやすくなる
従業員を平等に評価する制度が企業の中でしっかりと組み込まれていることが社内外に広まれば、「ここはしっかりしている会社だ」ということで、正規・非正規問わず社員からのその企業への評価は自然と高くなってゆくでしょう。そうなれば自社内にいる優秀な人材が外部へ流出する可能性は低くなります。また、採用面でもプラスの効果を与えるのは間違いないでしょう。
デメリット①:人件費が高くなる(≒適正になる)
一方で、同一労働同一賃金が企業にとってデメリットとなりうることは何でしょうか。
一つ目は、人件費の上昇です。どのような雇用形態にとっても平等な評価と報酬が与えられること自体は、全ての企業が目指すべきあり方です。しかし冒頭にも述べたように、これまで日本では正社員と非正社員との格差が当たり前に行われてきた歴史があります。その歴史や古い企業体質を変革し、給与体系を新しいものに変更するのは容易なことではないでしょう。
正しい方向へ向かっているので、ここではデメリットではなく、チャレンジと言っても良いかもしれません。
デメリット②:労働者に対しての説明準備など、必要工数が増える
本記事後半でも述べますが、2020年より施行が始まっている同一労働同一賃金制度では、社員から企業へ「なぜこの給料なのか」「どのように評価するのか」といった説明を上長へ請求する権利が与えられます。あらかじめ企業側から社員に対して詳細な説明は行われるべきですが、都度対応しなければならない場面も出てくるでしょう。その際にこれまで発生していなかった説明会の開催や、理由を調べるための調査時間などの工数が新たに発生する可能性が考えられます。
なるべく社員間で疑問が生まれないような、準備や仕組みづくりも同時に企業側には求められてきます。
同一労働同一賃金で効果的な導入事例
同一労働同一賃金をいち早く取り入れて効果を出している企業の事例を、ご紹介します。
●社員・パートナー社員の区別なく共通の職務等級制度を適用
●評価方法、処遇への反映も社員・パートナー社員ともに同じに
●スキルアップのための研修には、パートナー社員も区別なく参加可能に
●全社共通人事制度を導入、具体的には、三種あった雇用形態を「正社員」で統一し、処遇も統一に
同一労働同一賃金の導入で、気をつけなければならないこと
同一労働同一賃金への対応は一朝一夕にできるものではありません。新法が施行された以上、企業はそれに合わせたかたちで十分な対応準備を行なっていかなければなりません。事実、このタイミングでの人事制度全般の見直しを行っている中小企業も多く、弊社への問い合わせも急増中しております。事業主からすれば人件費が上がる心配をされる方もいるかもしれませんが、一方で、これまで人事制度的な理由で働くモチベーションが上げることができなかった社員もいるかもしれません。そうした社員の働きがいや、目標が新しくできることによって、企業全体の生産性が向上する可能性も十分考えられます。また採用においてもプラスの効果が期待できます。
同一労働同一賃金をピンチではなくチャンスと捉え、社内の雇用制度の確認、社員理解、制度設計、周知といったプロセスを余裕を持って行なっていくことが重要でしょう。