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新人が突然に「会社を辞めたい」と言い出す最大の原因とは?【新米人事の備忘録vol.3】

2023.11.07

  • 新米人事の備忘録
  • 竹本塾・竹本図書館

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新入社員がいきなり会社を辞めたいと言った!何が原因?


 

【目次】

①若手の早期離職の原因「リアリティ・ショック」とは何か?

②「リアリティ・ショック」が引き起こす様々な悪影響

③「リアリティ・ショック」の対策はどうすれば良い?

末:リアリティ・ショックについての参考文献・論文集

 


 

①若手の早期離職の原因「リアリティショック」とは何か?

 

前回の記事、新卒の新入社員たちは、何が原因で離職を考えるのか?【新米人事の備忘録vol.2】では、実際に大卒かつ新卒で3年以内に離職を行った若者1565名を対象に、会社のどのようなポイントが早期離職へと影響するのか調査した研究を中心に紹介しました。

本記事では、さらに深く踏み込んで早期離職につながる重大な要因「リアリティ・ショック」についてご紹介します。

 

出典:厚生労働省(2022)「新規学卒者の離職状況」

 

 

 

リアリティ・ショックとは何?

 

「リアリティ・ショック」を一言で表すと、「入社前に抱いていた期待と、入社後の実際の経験とのギャップ感」のことです。

 

これが起きる原因には、就職活動での分析が甘かった新入社員サイドだけではなく、企業サイドにも問題がある場合もございます。

例えば前回の記事でも、早期離職の原因として理由①に挙げられた「採用前に提供された情報が不正確だった」という要素ですが、まさにこれはリアリティ・ショックの引き金となっているからです。

 

さらに理由②で挙げられた「法令違反・倫理に反した違反があった」についても、男女共通で高く恨みを買っていた「一方的な労働条件の変更」ですが、これも新人からすればハシゴが外された感覚となり、同様にリアリティ・ショックを引き起こす要因となっています。

 

 

 

それは若者が軟弱だからでは?

 

もしかすると「そんなことでやる気をなくすなんて軟弱な精神だ!」と憤る方もいるかもしれません。

 

しかし、このリアリティ・ショックは新人や若者だけでなく、管理職に回されてから燃え尽き症候群を起こすミドル層、果ては定年退職後に燃え尽きてしまい老年のうつ病になってしまった世代の背景に共通して起きている心理的ダメージです。

つまりは、明日は我が身の話ともいえます。

 

まして近年は、ブラック企業が一般用語となり、転職市場も非常に活性化しています。

昨今の人材市場を踏まえると、人事の役割においてリアリティ・ショックへの対処は、もはや必須業務であると考えられます。

 

詳しくは、Z世代の社員育成は、何が正解か分からない!【新米人事の備忘録vol.1】で取り上げておりますので、重ねてご確認してみてください。

 

それでは、具体的にリアリティ・ショックには、どのような悪影響があるのでしょうか?

 

 


 

 

②「リアリティ・ショック」が引き起こす様々な悪影響

 

リアリティ・ショックが引き起こす悪影響には、いくつかのステップがあります。

ギャップを感じた新人が、どのような心理状態を経て早期離職を行うのか、順番に確認していきましょう。

 

 

 

STEP 1:会社と上司への不信感が増大

 

最初に起こるのは、会社や上司に対しての信頼を徐々に失っていくフェーズです。

 

リアリティ・ショックを感じることで、新入社員は「この会社は、社員にとって不誠実な組織だ」と認識をつくります。

さらに上司に対しても、「あの人は会社組織の代弁者だ」という認識を形成するようになり、同様に不信感を高めることになります。

 

「そんなことを言っても、業務をこなしてくれれば問題ない」

「これも社会人の第一歩。この経験をバネに育って欲しい」

 

このようにお考えになる人事や上司は、案外多くいるかもしれません。

しかし、この不信感は組織に対するコミットメント(愛情・忠誠心)の低下を引き起こします。

 

これが起きると、業務能力向上や生産性、やる気や忍耐力などのさまざまな点でマイナスの影響を与えてしまいます。

 

さらに、コミットメントの低下は「組織に対して」であり、「仕事・職種に対して」ではありません。よって、優秀な能力のある人材が、リアリティ・ショックによってコミットメント低下を引き起こした場合、高い確率で競合他社への移籍が考えられます。

 

 

 

STEP 2:「ワーク・エンゲージメント」が低下

 

STEP1の時点ですでに悪影響は大きいですが、さらにワーク・エンゲージメントの低下が追加されてきます。

 

ワーク・エンゲージメントとは、労働心理学・組織心理学の分野で重要なキーワードです。

従業員が、①仕事に対して強い関与や情熱を持ち、②仕事に没頭し、③組織に貢献したり、④仕事に満足感を感じたりする状態のことを「ワーク・エンゲージメントが高い」と指します。

 

ワークエンゲージメントは、組織内での生産性・創造性・忠誠心の向上に関連しており、従業員と組織の両方にとって利益をもたらすものです。つまり、リアリティ・ショックによって、このワーク・エンゲージメントが低下すると・・・

 

①仕事に対しての情熱ややる気を失い、

②仕事に集中しなくなり、

③貢献する意思を見せず自分本位になり、

④仕事に不満をつのらせて、

 →生産性・創造性・忠誠心を著しく下げる存在になる。

 

という、極めて避けたい状況に繋がります。

さらにSTEP1で述べたように上司への不信感も高いので、上司が「自分は昔はこれだけ頑張っていた」「もっとやる気を出せ」「これが社会人だ」等の喝をいれようとしても、新入社員はよりやる気を失って上司のことを避けようとするだけの結果となります。

 

 

 

STEP 3:会社・新入社員それぞれにダメージを与える早期離職を実行

 

ワーク・エンゲージメントの低下が行き着く先は、早期離職です。

 

当たり前の話ですが、企業にとって人材の早期離職は痛手です。

新入社員1人を戦力にするためには、①採用までの費用、②育成費用、③育成に関わる人員の時間やコスト・労力、などのさまざまなコストがかかります。

 

①の採用コストだけでも、就職みらい研究所発表の『就職白書2020』では、2019年度の新卒採用人当たりの平均コストは、93.6万円かけていることが分かります。

2021年以降は採用コストに関する費用は発表されていませんが、最新のものを確認しても、昨年度と同額が6割・増やす3割・減らすが1割以下と回答しており、現在ではさらに高額になっていることが予想されます。

 

出典:就職みらい研究所『就職白書2023』データ集

 

 

これらの多大なコストを投資しての早期離職は、まさにドブに捨てる行為と言えますが、もしかすると会社組織内でこのダメージの認識を明確に出来ている人は、予想以上に少ないかもしれませんね。

 

無論、若者にとっても早期離職はやはりキャリアに傷がつくうえに、その過程で適応障害などのさまざまなメンタルヘルスのダメージを被ることも多いです。

これまでのステップから、組織への不信感から恨みつらみを積み重ねることになりますので、離職後はアンチとなってSNSなどでイメージダウンの引き金となる存在に変貌します。

 

まさに、誰一人として大損しかない状態となるのです。

 

早期離職の原因「リアリティ・ショック」とは?

 


 

 

③「リアリティ・ショック」の対策はどうすれば良い?

 

まず、リアリティ・ショックの責任の所在はどこなのか?

結論から申しますと、最大の所在は「組織運営そのもの」です。

 

新入社員→人事担当→現場直属の上司→組織全体の順に、どのような問題を改善すればよいか考えていきます。

 

 

 

①新入社員

 

リアリティ・ショックは、会社や職務についての事前情報を調べる行動が少なかった学生、つまり事前知識が少ない者ほど、新入社員になってから感じやすいです。

「不勉学でけしからん」と言いたくはなりますが、採用したのは会社側です。

 

よって会社側は、採用後に事前に情報を正しく開示したり、会社や業職種について入社前に学習させる機会を設けることで、リアリティ・ショックを予防する手だてを打つことは可能です。

 

 

 

②人事担当

 

人事と言っても正確には役割が分かれると思いますが、ここでは採用・育成を一通り踏まえた部署として考えます。

 

リアリティ・ショック対策として、第一に重要なことは、採用前の正確な提供情報です。

続いて重要なことは、育成制度の設計です。

 

これらの重要性は、前回の記事でも必須事項として取り上げておりますので、重ねてご参考ください。

 

出典:岩崎(2020)第108回労働政策フォーラム「若者の離職状況に関する分析」

 

 

 

③現場直属の上司

 

新入社員は直属の上長・上司を会社の代弁者と見ることは上述しました。

つまり、新入社員に対して最も影響を与える存在は、直属の上司です

 

ここで重要になってくるのは、直属の上司の教育への意識と知識・理解です。

多く企業では、人事と直属の上司との連携や意識の共有が上手く出来ず、人事が知らない要因のもと離職につながるという事例が起こっていることがあります。

 

このミス・マッチングは他にも、人事が用意した訓練が、現場では通用せず上司も軽視しているというようなパターンにも繋がりますので、新入社員にとっては2重のリアリティ・ショックを与え、致命的な不信感を抱かせる可能性もあります。

 

この問題を解決する責任は誰か?

と、いうことで最初の「組織運営そのもの」という結論に繋がります。

 

 

 

④組織全体

 

これらの問題を解決するためには、人事だけでなく直属の上司を含めた、組織全体のマネジメントが重要です。

つまりは、一管理者の管理能力でなく、部門間の連携や組織的なコミュニケーションシステムに問題の原因が潜んでいるのです。

 

この部分を改善するには、生半可な小手先の改善や施策では通用しないのです。

 

早期の段階で、上司からのフォローをいかに組織的に設計・支援できるかが重要

 


 

 

本記事では、リアリティ・ショックの危険性と対策の難しさを紹介しました。

もし、あなたが人事担当として悩んでいて読んでいるのでしたら、もう勘弁してくれといった気分になったかもしれません。

 

そこで弊社の新入社員研修では、この問題に少しでもご支援出来るように、新入社員への研修だけでなく定期的な実態調査とフィードバックによる伴走型のサポートプラン「フォローアップコース」をご用意しております。

 

ご興味のある方は、以下のリンクより詳しい内容についてご確認ください。

 

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【文末資料】リアリティ・ショックについての参考文献・論文集

1993 組織社会化過程における新入社員の態度変容に関する研究 幻滅経験と入社8ヵ月後の態度・行動の変化

2005 リアリティ・ショックが若年者の就業意識に及ぼす影響

2007 新入社員の組織社会化に影響を及ぼす要因:初期キャリアの発達課題の視点

2012 リアリティ・ショックが若年就業者の組織適応に与える影響の実証研究 ──若年ホワイトカラーと若年看護師の比較分析──

2015 職域における若者のメンタルヘルス

2017 過去5年間のリアリティショック研究におけるリアリティショックの概念定義

2022 転職時のリアリティショックと離転職意思

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