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部下への関わり方再設計のススメ【竹本塾 人材育成のタネvol.48】
2025.10.23
- 人材育成のタネ

【この記事でわかること】
- なぜ「賃上げ」や「DX投資」だけでは若手が定着しないのか
- 若手育成がうまくいかない組織に共通する3つの課題
- 最新の組織心理学が示す「3つの介入」とは
- 明日から実践できる“心理的安全性”の高め方
- チームのパフォーマンスを引き出す、目的の「線の見せ方」
■ 賃上げもDX投資もしたのに若手が伸びない理由
岡山市北区で重機部品を製造するA社長の嘆きは、建設、流通、医療、ITなど、あらゆる業種で聞こえてきます。
「賃上げもDX投資もしたのに、若手が伸びずに辞めていく」――そんな声が増えています。
同じ悩みを抱える経営者に話を聞くと、3つの共通点が見えてきました。
若手育成が停滞する3つの背景
- 採用難で、現場に教育専任者を置けない
- プレイングマネジャーが疲弊し、教えるより自分でやる方が早い
- Z世代は納得感とワークライフバランスを重視し、旧来の「ティーチング型指導」が響かない
働く価値観とマネジメントの構造がすれ違い、成長のサイクルが止まっているのです。

■ カギは「組織心理の再設計」にある
こうしたギャップを埋めるカギは、組織心理の再設計です。
行動科学の知見では、次の3つの介入によって売上・利益が2けた伸びることが実証されています。
① 恐れを減らす
② 承認を増やす
③ 目的を線で示す
① 恐れを減らす――心理的安全性の力

チームが沈黙するのは、知識不足ではありません。
「違う意見を言えば浮くかもしれない」という社会的恐怖が原因だとされています。
米ハーバード大学のエイミー・C・エドモンドソン教授の研究では、製造業や医療チームを対象にした調査の結果、
安心して発言できる職場ほど学習行動が増え、最終的なパフォーマンスも有意に高いことが示されました。
たとえば、会議の冒頭でリーダーが自分の失敗を30秒話すだけで、場の空気が大きく変わるそうです。
② 承認を増やす――小さな成功に気づく仕組み

アメリカの心理学者エドワード・デシとリチャード・ライアンによる動機づけ研究の代表的理論「自己決定理論」では、
人は有能だと認められたり、裁量を感じたりすると、内発的に行動するとされています。
米国の世論調査会社Gallupが、53業界・18万超のユニットを分析したところ、
上位25%の**エンゲージメント(従業員が仕事と職場に対して抱く没頭・熱意・愛着の度合い)**が高いチームは、
下位25%に比べて営業利益が23%高く、離職率が43%低かったという結果が出ています。
たとえば、日報に「今日の小さな成功」を書き、上司がそれに一言返すだけで、承認の欠乏が満たされ、やる気が高まるといわれています。
③ 目的を線で示す――「なぜこの仕事をするのか」を可視化する
「この仕事は会社の何に影響しているのか」「どんな意味があるのか」が見えないと、人は手を抜いてしまう傾向があります。 
これはリンゲルマン効果と呼ばれます。また、目標設定理論のメタ分析では、
具体的で難度の高い目標を設定した場合、パフォーマンスが平均11〜25%向上することが報告されています。
そのため、四半期ごとに、
- 事業目標
- 主要成果(KPI)
- 個人タスク
を一本の線でつなぎ、ミーティングで「今日の作業がどこに効くか」を1分で共有するだけでも、目的と行動が直結します。
この瞬間、部署間の押し付け合いが消え、決裁スピードが上がるのです。
恐れをそぎ、努力をすくい上げ、目的を線で示す。
この3つの取り組みは、お金をかけずに明日からすぐ始められる行動です。
最新の組織心理学は、「理解され、役に立つ実感を得た瞬間に、人は驚くほどのエネルギーを発揮し、利益まで押し上げる」と示しています。
小さな一歩の積み重ねが、会社を次の成長曲線へ導く最短ルートになるはずです。
